彼女が戦いの道を歩き始めたのは、一重に金のためだった。何をするにも覚えが悪い、知識も見識も無く、そもそも人が嫌いだった。両親は早死していて、幼い頃から独りあれこれと努力をすれど、その日暮らしさえ不十分だった。心機一転か自暴自棄か、そんな彼女が身を投げ出した先は、闘技の見世物だった。

　彼女の身につけた闘いぶりというのは、どうにも不評なものだった。何せ、闘り合うお互いどちらも派手に血が出ないこと。まるで気持ちのいい重厚なメイスも大剣も、彼女はひらひら躱してしまう。稀に刃物付きの腰飾りで相手を傷付け、いくらかのまぐれで消耗したところをパタリと押し切る。その場合、彼女は小綺麗なまま試合を終え、観客は文句を言う。ところが、攻撃を避けきれず彼女に直撃すると、たちまち大いに観客席は沸く。意図せず、彼女はヒールとなっていた。

　やりたくもない闘いをして、やりたくもない悪役をやって、見下されるのに慣れ切って、馬鹿な振りも疲れ切って、ある日、初めて試合を投げ出した。後ろめたさなんてまるで無かった。街を歩いた。その時に見た景色は、普段より色付いて楽しげに見えた。道のりを振り返ってみると、いつの間にか纏まった金があることに気が付いた。どこか、遠くへ行こう。そう決めた。

　逃亡。