闘技場の決闘士…要するに罪人剣闘士。
　かつて崩壊した開拓村の生まれであり、細々とした生き残りによる過酷な生存競争の中、一定数出現する"敗北者"側として生きていた。
　日々の糧にすら苦労する中、獲物の探索、"勝者"の身の回りの世話、娯楽、果ては狩りの"餌"など、劣悪な環境下にて何とか生存する。
　そうした中、グループの勝ち組側に目をつけた、比較的大規模な街に出て、名を挙げた半グレ集団＿元々はこの開拓村の出身だった＿により、勝ち組グループ達は拾われる事になる。その際、数人の負け組が"玩具"として連れて行かれる。その中にタチアナもまた入っていた。
　半グレ集団の中、正面戦闘や破壊工作を勝ち組グループ達が行う中、細々とした雑用を追加で行う様になり、初めてタチアナはナイフを握り始める。
　「敵を攻撃する事」を覚えた彼女は才覚を見せ始め、負け組の中では唯一、半グレ集団からこっそりと戦闘の教育を受けた。
　やがて半グレ集団の中で数年経ったある日、勝ち組だった側の1人から喧嘩をふっかけられる。
　理由は単純だった、その元勝ち組グループのメンバーよりもタチアナが強くなり始めたからである。
　最初の内はいつも通りされるがまま、暴力を振るわれていたタチアナだったが、最終的にその人物は武器を持った。…初めからタチアナを排除するつもりだったからだ。
　危機に気づき、タチアナはナイフを持った。そして、互いの攻撃が交差する中。
　タチアナのナイフは、相手の心臓を正確に刺し貫いた。
　加害者の血と、手に伝わる温もり。そして、何よりも「死にたくない」という…初めてタチアナが獲得した、自らの意志と。今まで己を虐げて来た強者を屠ったという事実が、この上ない高揚感を与え、それ故に彼女は立ち尽くした。
　周囲で面白がっていた半グレ集団もまた、「自分たちの想像にない光景」を目にし、恐れた。彼らは一目散にその場から逃げ＿＿。
　1人残った彼女は程なく、憲兵に発見され、拘束される。
　一切の否定をせず、殺人を認めた彼女は死刑を求刑されたが、彼女達半グレ集団の事を知っていた闘技場の主人が取引を持ち掛ける。
　そうして、彼女は決闘士として引き取られ…それだけでなく、その後の調査、つまりは捕まった半グレ集団から諸々の事情を把握され、囚人決闘士としては異例である、「自らを買い取る権利」を有する決闘士として生活している。
　しかし、彼女の戦闘スタイルは自らの傷を恐れないそれであり、故にこそ大量に血が流れる。
　死ななければ、そして商品価値が下がってしまう、手足の重大な損壊、また顔への完治しない傷を除きほとんど「何をしてもいい」決闘士である彼女は、その美しい見た目が血や傷、その他に汚れる様を観客に披露する。
　結果として人気が上がり続けてており…買取金額は上がっていくばかりだ。