ウルシラ地方南東側に存在した、小さな村で生まれた少女。
農民である両親の元に生まれた一人娘であり、家族仲は良好であった。村自体も全員が家族のような状態で、中にはコボルト達もいた。蛮族である彼らを警戒する者もいたが、村のために働く姿を見て、いつしか溶け込んでいた。

5歳の頃、売り物である作物を最寄りの村に売りに行った両親が戻ってこず、村総出で捜索したところ、崖崩れに巻き込まれて死亡しているのが発見された。最初に見つけたのはテルツァだった。

家族を亡くした彼女を、村の教会に勤める年老いた神父が引き取った。聖職者としての生き方や暮らし方、ライフォスの教えを伝えながら、心の傷を癒していった。沈みきっていた彼女も、ゆっくりとだが生活を受け入れていって、神官になることを志すようになった。

13歳の頃、蛮族に住処を襲われた山賊が、物資金銭を求めて村を襲撃した。戦える者が少なく、略奪が始まった。逃げる間がないと察した神父に、騒ぎが治まるまで隠れているよう強く言われ、一人隠れ潜んでいた。略奪自体はその後、山賊を追ってきた蛮族も交わり、凄惨の一途を辿る。

耳に届く怒号、悲鳴、破壊音が収まった頃。様子を見たところ、村がなくなっていた。
村人は勿論、山賊すら蛮族に殺され奪われ、残っている遺体の方が少なかった。惑いながらさ迷い……運良く、まだ死ぬ前の神父を見つけた。

「恨まなくて良い、私達の分まで生きなくて良い、死にたいのならば、それも良い」
「どうか君の意志で生きてほしい。私達に縛られないでほしい」
「縛られることを選ぶのが君の意志ならば、止められないが」
「どうか、忘れて。覚えないでいて」

それだけ伝えて、事切れた神父を抱えていた。

彼女がライフォスの声を聞いたのは、神父が死んだ直後の事だった。

その後は僅かに残った遺品を整理し、当てどもなく旅を続ける。

その道中、召異術師に捕まり……苗床の素体ですらなく、供物として解体されそうになる。だが術師の魔術が失敗し、本来呼べるはずのない魔神が現れ、術師を殺してしまう。
生き残っていた彼女を見つけ……元々、契約を結ぶための魔術ではあり、結ぶ。魔神からしたら、この契約は互いの立場に優劣は存在しないものではあるのだが、恐怖と混乱の中の出来事であったのもあり、彼女からしたら、自身が使役される側の契約であると、今でも認識している。
故、彼女は現在召異魔術のコントロールが満足に出来ない。変わって小魔となった魔神が、彼女の体を通じて行使している。


いぬはすき、からすはこわい
わすれたくない/わすれられない/わすれなきゃいけない/どうして